なぜマニュアルが必要なのか
かつて、日本品質はマニュアルで表現し得ないと世界から評価されていました。ISO9000シリーズが日本で定着しにくかったのもそれが原因でした。
欧米企業の多くが、トップダウン方式で、優秀なトップが方針を定め、それを具体化するマニュアルを策定して、優秀でない現場の作業者を、マニュアルでコントロールするという方式をとっており、ISO9000シリーズもその理念に基づいて、ドキュメント至上主義で構成されていました。
一方、かつて、日本企業の多くは、どちらかと言えば、現場が優秀であったため、上から細かな指示がなくても、現場が自主的に最適なやり方を探し、それを実践していました。むしろ、上からの細かな指示は邪魔になるといった空気感がありました。
現在でも、こうした考え方に基づいた経営方針をとっている企業も少なくありませんが、やはり、主流は欧米方式の企業経営になりつつあります。原因は経営手法のグローバル化と日本社会の変動です。若者の会社に対する考え方も大きく変わってきているのです。決められたことをキチンとやれば良いという流れが主流になってきています。
マニュアルが効果的な理由は、①生産・サービスの均一化、②立ち上げのスピードアップ化の二つです。
均一化
均一化には幾つかの要素があります。人、店、世代などによる差の解消です。人が変わっても、継続的に同じマニュアルを使えば、同じサービスを提供することができます。店長が替わったり、アルバイトやパートが入れ替わってもサービスの内容が変わらないということです。マニュアルには理念なども記載されますので、社員の意識統一などにも効果的です。
チェーン店で、各店舗が同じマニュアルを使えば、店舗によるサービスの差がなくなります。同じ材料を使い、同じ手順で調理されれば、同じ味の料理が提供できるのです。勿論、接客サービスの内容やレベルも統一することが可能になります。
世代差解消は人的差解消の一部ともいえますが、往々にして、世代(年代)が変われば、価値観やものの捉え方が変わってきます。集団として変わってくるのです。マニュアル化はこれをかなり解消してくれます。個人的な価値観を仕事に持ち込むことを少なくできるからです。
スピードアップ化
新人教育は中間管理職にとって頭痛の種です。自己流でやると、教育をやる方もやられる方も苦痛以外の何者でもありません。手元にマニュアルがあれば、新人のスキルアップをスピードアップ化できます。特に、新店舗を構える場合は、何もかもゼロから立ち上げる必要があるため、マニュアルは必須です。感と経験だけに頼ることはできません。
マニュアル作成の留意点
マニュアルを策定する際、何よりも重要なのは、「使われるマニュアルでなければならない。」ということです。使われなければ、ただの情報であり、飾りに過ぎなくなります。分かっているようでも、中々できにくいものです。多くのマニュアルが死蔵されていたために多くのトラブルが発生しているのです。
使われるマニュアルとするためには、幾つかの工夫とコツがあります。まずは、全体像が手軽に掴めるようにする必要があります、目次構成や要約版の作成、項目毎のポイント欄などが効果的です。
「見やすい、理解しやすい」のは必須です。読む人の立場に立った表現が重要です。できればイラストや写真などもふんだんに盛り込みます。近年では、動画なども多用されるようになっています。
「べき論」は止めることです。理論ではなく、実践的に納得感が得られるように工夫しましょう。理論的に正しくても、実践されなければ何の意味もないのです。
マニュアル策定後の注意点
ある意味マニュアルは作った後が勝負です。トップを含めて、従業員全員に周知する必要があります。ただ知らせるだけではなく、定期的な従業員教育が必要です。トップや幹部にも必ず義務づけます。
次に重要なのは、リバイスです。現場の声を反映した定期的なレビューを必ず行いましょう。マニュアルが使われなくなる最大の原因は、このレビューの欠如です。実態に合わなくなればマニュアルはあっという間に形骸化します。
以下にマニュアルの項目例を示します。勿論、マニュアルは業態や経営方針などによって全く異なったものになるのは至極当然です。以下を参考にしつつ、オリジナルなマニュアルを策定しましょう。
店長マニュアル
- 社の基本的な考え方
- 数値目標
- 店長の役割と業務
- P/Aの採用と教育
- 日々のオペーレーションデノでの店長の役割
- 販売促進活動
- 職場の活性化
- 店長の行動規範
飲食業の業務マニュアル
- 基本的な心得
- ホールスタンバイ
- パッシング
- お冷とお茶の提供
- ウォッシャー
- 電話対応
- トイレチェック
- 料理・ドリンク提供
- オーダー受け
- 仕事の優先順位
- 商品知識
- トラブル対応