身元保証書は、企業に新たに加わる労働者から必要とされる重要な書類であり、その存在を保証する者が本人とともに責任を負う契約を示します。この記事では、「身元保証書」の意義、適用における重要な法的原則について詳しく解説します。
身元保証書とその本質
身元保証書は、企業に新たに加わる労働者が提出する書類です。企業がこの書類を作成し、労働者の身元を保証する第三者(保証人)が署名・捺印します。
身元保証書の重要な目的
- 本人の正確な人物評価の証明: 採用の決定は履歴書、職務経歴書、面接によって行われますが、これらはすべて本人の自己申告に基づいています。そのため、不正が存在しても確認することは難しいです。「身元保証書」は、偽装を防止し、履歴書や職務経歴書に虚偽がないこと、そして企業で働くことに問題のない人物であることを保証人を通じて証明する目的があります。
- 企業が損失を被った際の財政的保証: 横領や機密情報の漏洩、違法行為など、労働者が企業に損失を与えた場合、損害賠償が発生します。損害賠償額が労働者の支払能力を超える場合、保証人に支払いを求めることがあります。
- 抑止力としての役割: 労働者が不正行為を行い企業に損害を与えた場合、本人だけでなく保証人も大きな負担を負います。その結果、労働者に対する抑止力となり、不正行為を防止します。
- 緊急時の連絡先の確保: 何かの問題で労働者と連絡が取れなくなった際の緊急連絡先としても機能します。
「身元証明書」と「身元保証書」の違い、及び保証人になれる対象者について
「身元証明書」とは、個々の市町村が発行し、本人の法律上の行為能力を公式に証明する書類であり、「身分証明書」とも呼ばれます。法律上の行為能力は次の項目を指します。
- 禁治産や準禁治産の宣告を受けていない
- 後見人の登記を受けていない
- 破産の通知を受けていない
禁治産は、行為能力が全くない状態を表し、準禁治産は、行為能力が部分的に制限されている状態を指します。
「身元証明書」と「身元保証書」は、書類の内容や発行者が異なります。混同しないように注意が必要です。
身元保証人として適格な対象者
身元保証人になれる対象者は、企業によって自由に設定されます。ただし、損害賠償が発生した際に保証人が本人と生計を共にしている場合、適切な賠償額を確保するのが困難となる可能性があります。そのため、以下のように保証人として適格な人物を制限することがあります。
- 両親や配偶者を認めない
- 年金生活者を認めない
- 生計を別にする人物のみを許可する
- 独立した生計を立てている者のみを許可する
- 成人のみを対象とする
これらの制限は、企業の判断によるもので、必ずしも一般的なルールではありません。
「身元保証書」については、特定の規則や留意点がある
契約の長さ 具体的な期間が設定されていない場合、「身元保証書」は3年で効力を失います。一方、期間が定められている場合、最大で5年間の有効性があります。
更新に関して 「身元保証書」は自動的に更新されません。同様の内容での更新を前提とした条件が含まれていても、それは無視されます。新しい文書を作成し、保証人から署名や印鑑を再び得ることが更新のために必要です。いくつかの企業では、一度だけ提出を要求し、その後は更新を求めないこともあります。
保証責任の限界
身元保証法によれば、裁判所が保証人の責任やその額を定める際、使用者の監督過失、保証人が保証を提供した経緯や注意度合い、被用者の職務や地位の変化など、全ての状況を考慮します。これは、保証人が支払うべき賠償金額が、企業が被ったダメージの金額そのものではなく、裁判所が上記の事情を見て決定するものであることを意味します。そのため、保証人としての責任や賠償金額には制約があると考えられます。
通知の義務
企業は、従業員に問題が発生し、それが保証人に影響を及ぼす可能性がある場合、その事実を保証人に通知する必要があります。また、従業員の職務や職場が変更された場合も、その情報を保証人に伝える必要があります。これらの通知を怠った場合、保証人に対する賠償請求ができないことがあります。
契約解除
保証人は、通知を受け取った際に、契約を解除することができます。つまり、何らかの問題が発生し、賠償の可能性がある場合でも、保証人は契約解除を宣言することで、賠償責任から逃れることが可能かもしれません。
保証人の数
一般的には、「身元保証人」は1名または2名が求められます。1名は「家族」、もう1名は「独立した収入を持つ人」などとなることが多いです。
身元保証書と損害賠償 「身元保証書」の役割としては、損害賠償時の保障があるということをすでに説明しました。しかし、従業員が職務上の過失により企業に損害を与えた場合、実際には従業員自身や保証人から損害賠償を得られるのでしょうか? そして、その金額はどの程度なのでしょうか?
従業員への損害賠償請求
民法の解釈によれば、企業は従業員に対して、債務不履行や違法行為を理由に、損害の賠償を請求することが可能です。しかし、実際の裁判では、従業員が職務を怠ったとしても、故意や重大な過失がない限り、全額の賠償が認められることは少ないです。
つまり、意図的な過ちや違法行為、重大な過失がなければ、賠償請求は制約されるというわけです。
賠償金額の上限
2020年4月の民法改正により、「個人の保証契約は、最高額を定めなければ効力を生じない」と定められました。
「個人の保証契約」とは、未来に発生する特定でない債務に対する保証のことを指します。保証人から見れば、保証の範囲や金額が無限に増える可能性があります。
したがって、「身元保証書」には、賠償額の最高額を設定する必要があり、その記載がない場合、保証人への賠償請求は無効となることを意味します。
身元保証書の必要なルール
ここでは、「身元保証書」の法律上のルールについて説明します。このルールは、身元保証書を使うときには、必ず知っておくべきものです。
契約期間
身元保証書の契約期間は、期間が設定されていない場合は3年で無効になります。期間が設定されている場合は、最長5年となります。
更新 身元保証書は、「異議がなければ同じ内容で更新する」などという条項を含めても、それは無効とされます。自動更新は認められていないため、新たに文書を作り、署名・印鑑を取り直す必要があります。
企業によっては、入社時だけ身元保証書を提出してもらい、その後、失効しても更新を求めないという運用をしているところもあります。
保証人の交代について
万が一保証人が亡くなったり、連絡が取れなくなった場合は、保証人を交代させることが可能です。保証人が変更になった場合は、新たに身元保証書を作成し、署名・捺印を求める必要があります。
身元保証契約の解除について
前述の通り、身元保証人は何らかの理由で契約を解除することが可能です。例えば、保証人自身が健康上の理由などで身元保証人を続けることが困難になった場合などが該当します。その場合も新たに保証人を設け、身元保証書を作成する必要があります。
保証人への利益提供について
一般的に、身元保証人は無償でその役割を担うことが多いです。しかし、特定の状況下では、身元保証人に対して何らかの利益提供を行うことも考えられます。これは法律上は制限されていませんが、具体的な内容については労働法や契約法の観点から適切に行うことが求められます。
以上が身元保証人の役割とその制限についての説明です。身元保証人の役割は企業や従業員を保護するための重要な機能を果たしますが、それに伴う責任と制限も理解しておくことが重要です。
身元保証人を確保できない方
厚生労働省の制度の利用も考えてみてください。
- 身元保証制度は、就職時の身元保証人を確保できない保護観察対象者等について、民間事業者が1年間身元保証をし、雇用主に業務上の損害を与えた場合など一定の条件を満たすものについて、損害ごとの上限額の範囲内で見舞金を支払う制度です。
- 見舞金の内容は以下の通りです:
- 業務上の損害や犯罪被害については、1事故につき上限100万円。
- 住宅関連費用、携帯電話関連費用、資格等取得費用、私傷病医療費、工具、作業服等の貸与等については、見舞金の上限50万円。
- 身元保証制度の流れは以下の通りです:
- 民間団体が就労援助費を助成(国が2分の1の額を補助)。
- 身元保証事業者が身元保証料を支払う。
- 本人が身元保証を受け、前歴開示で就労する。
- 雇用主が事故時の見舞金を支払う(最大200万円)。
参照:厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/mimotohosho.pdf
身元保証書の記載事項
- 職業や職位: 保証人がどのような立場の人物かを示すことも重要です。
- 保証人と従業員との関係: 保証人が従業員とどのような関係にあるのかを明記することは、保証人が従業員の行動をどの程度把握できるかを示します。
- 身元保証の目的と範囲: 保証人が何を保証するのか、保証の範囲は何かを明記することも重要です。これには、被保証者が従業員として働く間の行動全般をカバーするべきです。
- 署名と日付: 保証人と被保証者の両方からの署名と日付は、身元保証書の正当性を証明します。
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まとめ
身元保証書とその運用に関する要点のまとめです。この制度は、企業が従業員に対する信頼を裏付けるとともに、従業員の潜在的な不正行為を抑止する役割を果たします。適切な運用を行うことで、企業はその利益を保護し、労働者の行動を規範することができます。
- 身元保証の法的意義と目的: 身元保証は、従業員が職務上の責任を果たさなかった場合や、損害を与えた場合に、企業が第三者の保証人に賠償責任を求めることができる制度です。同時に、身元保証書は従業員と連絡が取れない場合の緊急連絡先としても利用可能です。
- 保証責任の限度: 身元保証人が負う賠償金額は、裁判所が決定します。その際、企業側の監督義務、身元保証人と当事者の関係性などを考慮します。
- 身元保証人への通知義務: 企業は、トラブルや任務変更があった場合、身元保証人に通知する義務があります。
- 身元保証契約の解除: 通知を受け取った身元保証人は、契約を解除することができます。
- 身元保証書の記載事項: 身元保証書には、契約期間、賠償金額の上限額、保証人の連絡先などを記載します。記入は自著であることが必要です。
- 身元保証書の提出: この制度が人物の保証であり、多くの企業で行われていることを説明することで、従業員の不安を払拭し、身元保証書の提出を促します。ただし、身元保証書の提出を拒否された場合、就業規則に提出の必要性を明記していれば、解雇も可能です。
- 追加情報: 保証人の名前、住所、職業、職位、保証人と従業員との関係、保証の目的と範囲、署名と日付など、身元保証書に記載すべき重要な情報があります。
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