ビジネスにとって最重要事項は顧客であり、顧客が集まるマーケット(市場)です。幾ら素晴らしい商品やサービスであっても、顧客がいなければビジネスとして成立しません。顧客は誰で、何処にいるのか。どのような価格帯の何を求めているのか。これらを常に問い続けることが重要です。マーケティング活動や市場調査はそのためにこそあるのです。
1.1 マーケティングとは何か
マーケティングを最も広い概念で定義すれば「企業から市場への働きかけ」ということになります。もう少し分かりやすく言えば、「顧客(のニーズ)を知るための活動」とも言えます。
重要なのは「マーケットイン」の発想です。「プロダクトアウト」の発想が製品やサービスから出発するのに対して、「マーケットイン」の考え方は顧客(市場)から出発します。顧客は誰で、何を求めているのか。何処にいて、どのような環境に置かれているのか。これを常に問い続ける必要があります。既にある製品やサービスを如何に売るのかを考えるのではなく、むしろ、製品やサービスの方を顧客ニーズに合わせるよう努めるべきです。
マーケティングを狭義に定義すると、市場調査(マーケティング・リサーチ)ということになりますが、ここでは、マーケティングを広い概念として捉え、市場調査はマーケティングのツールと考えることにします。
1.2 マーケティングミックス
マーケティング戦略において、市場から顧客の望ましい反応を引き出すためには、四つの視点を組み合わせて対応すべきだと言われてきました。いわゆる「マーケティングミックスの4P」と言われるもので、①Product(製品、サービス、品質、デザインなど)、②Price(価格など)、③Place(チャンネル、輸送、流通など)、④Promotion(販売促進、広告など)です。
しかしながら、この4Pはあくまで提供者側の目線に立ったもので、効果的なマーケティングのためには、これを顧客の視点から捉え直すことが極めて重要です。つまり、①ProductはCustomer solution、②PriceはCustomer cost、③PlaceはConvenience、④PromotionはCommunicatinと捉え直すのです。顧客とのコミュニーケーションを密にして、顧客が許容するコストで、顧客の満足を獲得できるソリューションを如何に提供するかを考えるのです。4Pに対して4Cという言い方をします。
1.3 市場調査の考え方
市場調査はマーケティングにおいて顧客のニーズ情報を獲得するための重要なツールです。市場調査の最も一般的な手法は、質問票による調査やインタビューによる情報収集です。近年では、インターネットによる調査なども多く見られるようになりました。
どのような調査手法を採るかは、調査コストや調査目的、調査対象などによって最適なものを組み合わせていきますが、市場調査の考え方で重要なのは、顧客ニーズの本質を理解することです。
顧客ニーズには、既に顕在化しているニーズと潜在的なニーズがあります。顕在化しているニーズは一般的な調査手法で捉えることが比較的容易ですが、これだけだと競合企業との比較優位な戦略を立案することは難しいと考えるべきです。市場調査のポイントは、如何にして潜在的な顧客ニーズを掘り起こすかです。これに成功すれば競合他社に対して競争優位なイノベーション戦略を立案することが可能になってくるのです。
新たなスポーツカーのターゲットゾーン(製品ポジショニング)を決めるための市場調査の例です。調査の結果、AからGが既存製品のポジションと判明したとすれば、あいているゾーンであるZが新製品のターゲットゾーンということになります。
1.4 市場調査の具体的な手順
市場調査は、まず現状把握からスタートします。顧客の状況や何を求めているかを慎重かつ広範囲に調べます。できるだけ潜在的なニーズ掘り起こしの視点を持ちましょう。
次に、なぜそのような結果になるのかを考察します。顧客の行動には一定の理由がある可能性があります。その理由を探れば、より本質的な顧客ニーズ情報を獲得することが出来ます。ただ、近年の顧客の行動には、その行動原理を捉えにくいものが多くなっています。後から分析することは可能ですが、事前に捉えるのは極めて難しいことを理解しましょう。
市場調査で最も重要なのが、最後に行う今後の企業行動戦略への活用です。分析だけで終わってはコストがかかるだけです。調査・分析結果から企業の活動指針の選択肢を幾つか導き出す必要があります。経営者はここで示された企業行動指針の選択肢の中から最も効果的なものを意思決定することになります。