与信管理は銀行だけの仕事ではありません。取引先企業の与信管理をキチンとやっておかないと、とんでもない状況に巻き込まれる可能性があります。連鎖倒産ということを聞いたことがあると思います。特に中小・零細企業は、主要な取引先からの売掛金が回収できなくなると、ひとたまりもなく連鎖倒産ということになってしまいます。
まずは、取引先企業が傾きかけている「予兆」をつかむことが重要です。「何かおかしい」という感じです。勿論、決算書をチェックしたり、調査会社のレポートを使うことも大事ですが、これらは急激な変化を把握できません。せいぜい年に数回程度の情報になってしまいます。気づいたときは遅かったでは済まされないのです。
やはり、日常的な会社訪問や、電話・メールなどによって、リアルタイムな空気感をつかむことが重要になってくるのです。
取引先の社員を見て会社の雰囲気を把握する
会社の状況は社員の態度に現れます。表情が何となく暗い、電話の声に覇気がない、職場仲間や上司の悪口が多い、伝言が伝わっていない、といった状況は最初のシグナルとして要注意です。
職場の雰囲気が荒れているのも、会社の状況が悪いため、細かいところが行き届いていないことの現れです。書類が乱雑に放置され、整理されていない、トイレが汚い、額縁や装飾が歪んでいる、机が妙に寒々としている、などに気を付けましょう。
会社の全体のムードが急に悪くなる場合があります。これは会社が上手くいっていない兆候です。社員の退職が急に増える、変な人事異動があるなどといった通常ではないサインを見落とさないようにしましょう。
会社の幹部が表に出なくなるのは、逃げているか、始末に奔走していて余裕がない可能性があります。幹部の不在が多い、社長の個人的な不祥事が噂になる、役員同士でもめている、幹部社員の退職が目立つ、などはやはり危険な兆候と見るべきです。
取引関係に支障が出てくると、もはや兆候ではなく、顕在化です。売掛金の回収が上手く出来ない、取引条件が変わる、金融機関が変わった、最近評判の悪い企業との取引を始めた、などが見えたら、すぐに何らかのアクションを取るべきです。
対策すべき気になり事があった場合
営業担当などから何らかのサインが示されたら、すぐに次の行動に移るべきです。スピードが命です。後の祭りにならないようにしましょう。気を付けたいのは、「初動は素早く、慎重に」です。早いのは良いのですが、あまりおおっぴらに聞き回ると、風評被害を起こす可能性があります。火だねのないところに火を付けたら大変です。
ターゲット会社の取引先からの聞き取りは効果的です。取引先が偏っていないか、評判の悪い企業との取引がないか、などを慎重に聞き取ります。支払いの遅延や納期遅れ、決済方式の変更などがないかも併せて聞き取ります。金融関係では、メインバンクの変更や手形の出回り具合なども聞き取ります。とにかく、ポイントはさりげなく聞き取ることです。自ら火を付けることだけは止めましょう。
不動産登記簿のチェックという手もあります。不動産登記簿は法務局で誰でも閲覧できます。不動産の担保権設定状況はどうか、主要な不動産を処分していないかなどをチェックします。一つの不動産に二重、三重の担保権が設定されていると、資金繰りが苦しいと見るべきです。色んな金融機関が担保権を設定している場合も同様と考えます。
中小・零細企業の場合は入手が難しいですが、3年程度の決算書をチェックするとさらに詳しい状況が分かります。売り上げが停滞・減少していないか、経常利益が悪化していないか、有利子負債が増えていないか、未回収債権が増えていないかといった、収益構造の変化は企業の体質をチェックするのに効果的です。
決算書では資金繰りの状況が分かります。借入金が増えていないか、割引手形が増えていないか、手元資金が減っていないか、仕入れ債務が増えていないか、などをチェックします。
最悪の場合、決算書で粉飾決算が明るみになることもあります。売り上げの水増し、経費の過少計上、会計操作などが見えたら、アウトと考えましょう。
本格的な対策とは
初動調査でイエローカード若しくはレッドカードとなったら、次の本格的な対策を講じます。
与信限度額を減らす、現金取引に移行する、売り掛けを極力減らすといった、取引法の変更を検討します。
担保を確保する、社長の個人資産を押さえる、仮処分を検討する、商品の引き上げなどの債権取り立ての強攻策を検討します。
特に際どい相手の場合は、法的措置を選択肢に入れます。弁護士との綿密な調整・協議が必要です。